おおた産業メンタルラボ

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「うつ病」はどう良くなるのか その4

「うつ病」の精神療法について書いてみます。
できるだけ医学的なことではなくて、ただのメンタル系産業医が臨床的に考えていること、の視点で書きます。

「うつ病」の治療法として、カウンセリングや精神療法、国も診療報酬で認めている「認知行動療法」はどうなの?という疑問があろうかと思います。
まず用語定義。ここでは、「精神科医が行う言語的な治療介入」として「精神療法」として書きます。
(精神療法とかカウンセリングとかの詳細については、また別稿にします)

|重症度から見た適応|
重症度の点からは、軽症のうつ病には治療効果があります。
中等症、重症の「うつ病」に対しては、それ単独では無効です。
そもそも十分に思考が働かない状態、すなわち言語的やり取りが十分にできない状態が中等症以上のうつ病なので、有効であったらそれは診断と矛盾するわけです。
もちろん、精神科治療の開始時点では中等症うつ病であっても、回復が進んで軽症うつ病になってくるので、その段階では精神療法も有効になります。

|薬物療法と比べてどのくらい有効なのか|
精神療法は軽症のうつ病に対しては、統計的に「薬物療法と同じかそれ以上に有効」とされています。
特に再発防止効果を見込めるところが精神療法の薬物療法と大きく違うアドバンテージです。
そして、精神療法は薬物療法の効果を高めます。これも統計的に明らかです。
このことから、薬物療法と精神療法は併せて行われるものであって、どちらかだけ、ということは普通はありません。

|うつ病と言えば認知行動療法|
認知行動療法は精神療法のひとつです。
国によって「うつ病」に対する効果が公認された精神療法です。
でもまあ、医療機関にとって採算が取れるほどの診療報酬はついていないので、大学病院などで「これもできます!」という箔付け以上の意味はなくて、大々的に「どんどん来てねー」と宣伝しているところはないと思います。
加えて、宣伝するとその対象ではない患者さんがいっぱい来ちゃう、という問題があるのだと思います。

|認知行動療法以外はうつ病に効果はないの?|
そんなことはありません。適切な精神療法はすべからく効果があります。ただ、その効果が治療者次第、そして対象者も選ぶというのが、診療報酬制度からはつらいところです。

|じゃあ再発予防に効果があるという精神療法は普通は受けられないの?|
これまたそんなことはありません。精神科を受診している人は「通院精神療法」をほぼ間違いなく受けているはずです。受診明細には書いてあるはず。
でも、通院精神療法は何をするかって、これまた治療者次第なのですよね。

|精神療法はどのように「効く」のか|
精神療法は何を目的としているのか、という話です。
認知行動療法を例に挙げれば、目的は病気になりやすい「認知」の変化です。
「認知」とは何かといえば、「物事の捉え方」「思考のパターン」と言い換えればいいでしょうか。

典型的な「うつ病」においては「この不調は病気なんかではなくて、私の怠けだ」という病的な「認知」があります。ここから「私は『うつ病』という病気だったんだ。繰り返すかもしれないから働き方に気を付けよう、思考のパターンに気を付けよう、薬を利用しよう」となるのが「認知」が変化した、ということになります。
あれ?これって絶対に認知行動療法が必要ですかね?
そうなんです。別に認知行動療法をしなくても、抗うつ薬が効くだけでも認知は変化するんです。運動療法でも、休息だけでも改善すると変化してくることでしょう。
でも、その変化してきたこと、改善してきたことに注目して、「その変化が大事なことではないですか?」と共有する事、これが常識的な精神療法になろうかと思います。
これすらもできない/やらない医者の話は置いときます。

認知行動療法になると、より積極的に自分を苦しくしてしまうような「思考のパターン」を振り返り、それを変化させるように意識して練習する、ということが標準的な取り組みになります。

  • 軽症のうつ病には精神療法は有効
  • 精神療法は思考のパターンを変化させるのが目的

といったところがこの「『うつ病』の精神療法」のまとめでした。

ひとまず、「うつ病」はどう良くなるのかシリーズはこれで区切りにします。